第66章 愛ゆえに苦しめと
「あッ牛乳が」
牛乳パックを片手に実弥が悲痛に叫んだ。
お昼ご飯はホワイトソースのパスタを作ろうと二人で台所に立っていたのだが、あとちょっとというところで牛乳を使い切ってしまった。
「あらーそれ最後のやつだね。」
「やっちまった…だいぶ足りねぇ。買ってくるか。」
「じゃあ私行ってくるよ。コンビニでいいでしょ。」
私が言うと実弥はムッとした。
「だめだ。俺が行くから。」
「えー、でも私が作れると思うの?ハイレベルなホワイトソースを??」
「………」
うん無言はやめてほしいな。まあ作れないんだけど。
「コンビニならいいでしょ?すぐそこじゃん。牛乳くらい…。」
「…ダメ」
「けちんぼ」
とは言いつつ、牛乳がないとどうにもできない。
「……わかった」
「やったぁ!お散歩だぁ!!」
「…チッ」
最近は一人の外出がほとんどなかったので喜びがつい口に出てしまった。
「わーい行ってきます行ってきます!」
「待てゴラァ!!着こまねえなら許さねえぞ!!!」
「ギャン」
薄着警察に捕まり、あっという間に完全防寒モードに。
「買ってくるものは」
「コミックスとケーキ」
「牛乳だ」
はっしまった目的を忘れるところだった。
「気をつけて…本当に気をつけて行ってこいよ……」
「顔が怖いー行ってきます!」
実弥にガン飛ばされながらも家を出る。
あれだけ散々言われながらもちゃんとコンビニに到着。
牛乳と…まあ内緒だけど漫画を購入。
るんるん気分で家に向かう。
(ショートカットしよ)
コンビニまでの道に、細い道がある。普段は通らないけれど、さっさと帰りたかったのでその道を通った。
大きな道でもないので普段は滅多に使わない。人もあまりいないのでうってつけの近道だ。
と…思っていたけれど。
人の気配がした。珍しい。いつもは誰もいないのに。
その気配が…どこか懐かしいような………。
「見つけた!」
「はぇ」
前から来たのは男の人だった。
その人はガシッと私の両肩をつかむ。
ピアスがこれでもかと言うほどジャラジャラ両耳についている。いや耳だけじゃない。唇にも舌にも目元にも。首元にはタトゥーのようなものが見える。それにひどくなれない香りがした。うえっ香水きつっ。