第64章 恨みは吐き出すもの
しかしおはぎは出てこなかった。
じっとゲージの奥でこちらを睨んでいる。弘くんがおはぎに触ろうと中に手を入れると、おはぎは喉を鳴らして唸った。
「出てこないよ…?」
みんな不満そうにゲージの中をのぞいていた。
『なんだコイツらは』
「わ、にゃーって鳴いたよ」
「かわいいねぇ」
『それ以上、俺に近づいてみろ!全員噛み殺してやる!!!』
おはぎは怒っているのに、みんなそんなことには気づかない。恐ろしい声が聞こえたので私は立ち上がり、ゲージに近づいた。
「ごめんねぇ、この子人見知りなの。ちょっと離れてあげて。」
そう言うと、少し罰が悪そうにみんなゲージから離れた。
「ほらおいで」
私が手を差し出してもおはぎは出て来ようとはしなかった。
『断る、お前もここから逃げた方がいい、あの女は許してやってもいいが、この小さい奴らは危害を加えてくるぞ。』
「……」
あの女って…おばさんのことを言ってるのかな。いや、まあそれはいいとして…。
やっぱ家猫だから知らない場所に来ると警戒するんだなぁ。
「出ておいで、大丈夫。怖い人はいないよ。」
なるべく優しく言うと、おはぎはゲージの奥から私の手に向かって歩いた。そしてそのまま外に出て、私の体をするすると登って肩の上に乗った。
『まあ信じてやらなくもない。』
「わっ、危ないよ」
突然のことに驚いたが、子供たちは大興奮。きゃーっと大騒ぎで私に詰め寄った。
「ちゃんすごーいっ!!」
「俺も!!俺も肩に乗せるのやる!!」
『やかましいガキども!!近づくな!!』
「ぎゃー!頭に登るのはやめてーー!!!」
おはぎはビビりまくって私の頭によじ登った。髪の毛はひっぱられるし頭皮は引っ掻かれるし痛いのなんの。
「俺も頭に乗せる!」
「ばか、あんた丸坊主なんだから乗らないわよ!!」
「俺!俺さわりたい!!」
「うぎゃーーーおはぎおりてーーっ!!」
『わーーっやっぱ嫌だ戻る戻るぅー!!』
「……何やってんだお前ら」
実弥がうんざりした顔で私たちを見ていたが、私の頭からおはぎを抱っこで退かしてくれてことなきを得た。