第63章 馬鹿の失敗談
今日はというか今日もだが、晩ごはんから何まで全部実弥が用意してくれた。私たちはイベントごとに必死なタイプではないので特別な料理などはなく、いつも通り。
食欲がない私のためにあっさりしたものを用意してくれた。今日は湯豆腐。
「実弥はガッツリ系が食べたくならないの?」
「別に」
と、まあこんな感じ。
私も妊娠したばかりの頃はお酒が恋しくなるかなあ、とかコテコテのものがたべたくなるかも、と考えていたけど。
そんなもんこの世から消え去ればいいのにって思うくらいには超具合が悪くなって食欲が消え去った。
実弥はそうでもないだろうに、私に合わせてくれているのかな。でもそれが苦じゃないって言ってくれるのが、自分勝手ながら嬉しかったりする。
『おい、俺にも食わせろ。俺のがまだだぞ。腹が減ったんだ。おい、おい。』
「ああ、ごめんごめん。ごめんね。」
おはぎが私の足をズボン越しにガリガリ引っ掻いてくるので立ち上がった。
「何て言ったんだ?」
「お腹が空いたんだって。」
「俺がやるから座ってろ。」
実弥はおはぎが立った途端にぐるるるるると低い声で唸った。豹変したおはぎに実弥が驚いて呆然と立ち尽くす。
『ふざけるな!俺はお前に頼んでない!!こいつに頼んだんだ!!!』
おはぎが劣化の如く怒り、にゃあにゃあと唸った。
「…何て?」
「ご飯の用意を私にやれって言ってる。」
「ええ…」
実弥は若干ショックだったらしい。…まあ、ここまでショックされたらね。
「どうしたのどうしたの。そんなに怒ったら怖いよ、おはぎ。」
おはぎを抱き上げるも、まだ不機嫌そうだった。
『うるさい、俺の飯はお前の仕事だろう。お前が用意するんだろう。』
「……うん、うん、わかったよ。」
私は動物の感情は上手に読み取れない。人間よりも…なんというか、小さいから。感情がはっきりとしないから。
でも、今は確かにわかる。おはぎの感情はよくわかる。
「実弥、私がおはぎにご飯あげるよ。」
「…そうか?」
『ふん、最初からそうしろ。』
おはぎを一度床に下ろし、いつもの場所に餌を用意してあげた。