第62章 何も知らないで
「どうして泣いてるの?」
びっくりして私は実弥の目元に手を伸ばした。涙を拭おうとしたのだが、その手は実弥に握られてしまった。
「………」
「実弥?」
伝わってくる悲しい感情が大きくて、私は一人で勝手におろおろしていた。
そんな私を差し置いて実弥は話し始めた。
「俺はお前が生きているだけで幸せだ」
「…?」
「見返りも何も求めちゃいねえんだよ」
実弥はまたぎゅうっと私に抱きついた。
「悲しいこと、言うなよ」
その声は、震えていて。湿っぽくて。
でも私は、わからない。
わからない。
わからない。
「……悲しいと…思ってことは…」
「悲しいよ。俺は悲しい。」
「…どうして、実弥が悲しいの。」
実弥は抱きしめる力を緩めて、私の頬を大きな手で包んだ。
「今まで気づけなかった俺に腹が立つし、何よりお前からそんなことを聞くのが悲しいんだ。」
「……ごめん」
「…何に謝ってんだよ」
「えと、悲しませたことに対して…?」
いまいち要領を得ない。
難しいなぁ。でも実弥が泣くほどだからよっぽどだとはわかる。
今も、彼が泣いていることが他人事に思えて仕方がない。
「謝んな」
「…ごめ…っ」
謝るなと言われた直後に謝罪の言葉が出てしまい、これ以上余計なことを話さないように唇を噛んだ。
「俺は、が今まで無茶をしていた理由が…生きるためだと思うと、悲しくてたまらないんだよ。」
「……」
「こんなんじゃ、長生きできないだろ、お前」
「長生き……」
あまり考えたことない。
未来を考えるのは苦手だ。私はいつも後先考えず動いてしまうから。