第62章 何も知らないで
実弥の温かい体温で、自分の体がいかに冷え切っているのかを思い知らされる。
……ちゃんと逃げないで話さなくちゃ。
「……あの時は…実弥に、悪いとかは頭になかった…」
その結果、怒られても殴られても。
正直に話すのは嫌い。ちゃんと向き合うのは嫌い。何をやっても無駄だとわかっているから。
どうせ私が悪いから、怒られる。どうせ私がいけないことをしたから叩かれる。
私の行動の何が正しくていけないのか、わからない。
何をしてもダメな気がして。
だから理由が欲しかったの。
誰かを守るためなら、何をしてもいいと思った。
私でも許されると思った。自由に生きて、どこにだって行けると。
だけど、誰かを守るという理由では、免罪符にはならないのだ。
「自分を守るのが怖かった、ちょっとでも、みんなより自分を優先しようとする自分が怖かった。無惨を拒むことはみんなより自分を優先することになると思ったの。」
私は、言い訳をしていたんだ。
「……実弥の言う通り、私は自分から逃げた。…みんなを守りたいって言い訳をして…私が、生きててもいい理由にしたの。」
生きようと、そう初めて思った時に気づいた。
「私が生きていていいって胸を張るために、みんなを言い訳にし続けた。私を優先してしまうと、今までの自分を否定することになる……どうして生きていけばいいのかわからなくなるの。」
生きる理由がないことを知ってしまった。あの日から、私はがむしゃらにもがき続けて、たくさんの言い訳をして、屁理屈を言って、生きた。
「無惨とのことは…辛いことでも、嫌なことでもなくて…」
隠して、隠して。
自分にさえ嘘をついて。
「なんでもないことだと、思って……」
最後は尻すぼみになった。
ちゃんと話さないといけないのに声が出なかった。実弥は私の背中から頭に手を動かし、寝かしつけるような手つきで優しく撫でた。
「……お前さァ」
「うん?」
「………いつもそんなこと考えてんのか?」
実弥に突然そう聞かれ、ちょっと意外だった。
「そりゃあ…私だって、いつも色々考えてる…よ……」
少し体を離して隣に寝転ぶ実弥の顔を見上げた時、言葉が止まった。
実弥の顔の下のシーツが、ちょっとだけ濡れていた。実弥の目からはポロポロと涙がこぼれていた。