第62章 何も知らないで
実弥が慌ただしく寝室に入ってきた。
そしてベッドに寝転がる私たちを見てギョッとしたのか駆け寄ってきた。
「具合悪いのか?」
「…別に」
「いや悪いだろ、何の嘘だァ。」
「…それより、…どこに…行ってたの…」
実弥はその質問には答えたくなさそうだったが、ぶつぶつと話し出した。
「ちょっと野暮用…」
「…巌勝に、直接会いに行ってたに…一票」
「…グゥ」
どうやら当たったらしい。ははっ。わかりやすすぎ。
「……なんか、言われた…?」
「……ああ。懇切丁寧に全部教えてもらったよ。」
はい詰み。
あの野郎全部しゃべりやがったな。絶対何があっても助けてやらん。泣いて私にスライディング土下座かますまで許さん。
…いや、巌勝がそんなことしないか。ていうかそんなに困る事態に陥ることはないと思う。
「お前の説明がクソ下手くそなことはよ〜くわかった……」
実弥は私の横に寝転んだ。
そして、寝転ぶ私をぎゅっと腕に閉じ込めた。
「……なーにー…」
頭がガンガンと痛む私はなす術なくされるがままだった。
「…ごめん」
「……、だからぁ、なーにーがー…」
実弥から伝わってくる感情はやたらと湿っぽい。それが嫌で、反射的に背中に手を回した。
ピッタリと密着すると、より深い情報を感じられるようになる。
泣いているような、そんな感情。
「俺は……お前がすすんで無惨と“そういう”ことになったと……」
「……」
「巌勝の話でよくわかったよ。」
実弥はか細くも芯のある声で言った。
「……無理やりだったんだな」
……………。
「………聞いちゃったんだ」
「…お前が何も教えないから。」
実弥の手が震えているような気がして、胸が苦しかった。
ああ、ほら。
秘密は、バレた時が一番辛い。
「何で言ってくれなかったンだ」
「……なんで、って」
特に、秘密が誰かを傷つけた時は、本当に辛い。