第62章 何も知らないで
結局ベッドはキチキチにくっついたままだった。おいこら私の意見も聞け。
結構な言い合いになったので、私は疲れて早速新しいベッドに寝転んだ。
「……ねぇ」
「ん?」
実弥はベッドに腰掛け、私の額に手を置いた。額にかかる前髪をそっとはらう。やたらとベタベタ触ってくるのは、甘えてる証拠だ。
まあ本人は無自覚だろうけど。
「もう怒ってない?」
「……何のことだ?」
「えと……」
実弥はそっと私の額から手を滑らせて頬を撫でた。実弥がちょうど叩いたところ。
「…もう叩いたりしねェよ。」
「……ホント?」
「あァ。」
「………」
実弥の塩らしい声に思わず吹き出しそうになる。
「ううん。悪いのは私の方だから。」
「………」
「実際、巌勝が止めてくれなかったら……」
きっと最後までシていたよね。
その場の雰囲気というか、つい流されしまった。
その結果実弥を傷つけてしまっていた。
「は?なんであいつか出てくるんだよ」
実弥の手がぴたりと止まった。
「巌勝もいたし。」
「は?は?どういう状況?」
「さあ、それは私もわからない。」
「?????」
彼は混乱していた。
「お前は無惨と……“そういう”ことをしたんだろ?」
「……そうですね。」
「………なんでそこにアイツがいるんだよ。」
「無惨の声がうるさいって、止めてくれた。」
「止めてくれた?」
私の言葉を復唱し、実弥は何かハッとしたように顔をこわばらせた。
「…待て、合意の上でのことだったんじゃ……」
「そうだね。」
「じゃあなんで巌勝は止めたんだ。」
「だから、無惨がうるさいからって……」
「ああ、わかった。もういい。」
実弥は立ち上がった。
「もういい」
再びそう言った。実弥の顔は青くて、心配になって私も立ち上がった。
「……どうしたの?」
実弥はぎゅっと目を閉じて頭を抱えた。
何か言いたいことを耐えているような気配がしたが、彼は何も言わなかった。
「お前、巌勝から連絡先か何かもらったりしてなかったか。」
「え?あ、いや、無惨の事務所にかければ秘書の彼が出るからって…。」
「わかった」
「え!?何、電話かけるの?!」
実弥は私の声など聞いてはいない。スマホとコートを掴み、何も言わずに外に出ようとした。