第62章 何も知らないで
「で?なんでこうなったの?」
後日、家具屋で注文していたベッドが届いた。
私は届いた時に散歩に行っていたので実弥が対応してくれたのだが。
「なんでシングルベッドが二つみっちりくっついてるんだよ!!」
「あ?なに?あんぱん?」
「下手なとぼけ方するな!!」
実弥はずっと私から顔を背けている。…悪いことをしたという自覚があるみたいで何よりです。
「シングルにした意味ないじゃん!今すぐ離せ!距離をあけろ!!ソーシャルディスタンス!!!」
「おはぎにお菓子やってくる」
「おいこらー!!」
実弥はそそくさと寝室から出ていった。
…あんの野郎これが狙いだったのかクソめ。散歩に行って来いって穏やかな微笑みで言うからなんか変だなとは思っていたけど!!!
しょうがねぇ。こうなったら私が引き離してやろう。
意地でもくっつかねぇぞ私は。
と、いうことで重いベッドをズルズル押したり引いたりして移動……
できたらいいんだけど。
(おっっっも!!!!!)
私の貧弱さでは難しい。いや、難しいのをどうにかするのが私だ。よっしゃやったるぜ。
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
「おい、何を暴れて……」
しかし、部屋に戻ってきた実弥が私に掴みかかる勢いで私を止めた。
「何やってんだテメエ!!!!!」
「うるせー!意地でもこんなキツキツの場所で私は寝ないからな!!!」
「だ!!!ま!!!れ!!!」
実弥が吠えた。
それにビクッとなって思わず固まる。じわじわと目に涙がたまる。
「うッ」
「あ、おい」
「なんでベッド動かしただけで怒るの〜!!!!!」
ビャーーーっと私が泣き出したことでようやく冷静になったらしい。
実弥は涙をボロボロ流す私をそっと抱き寄せて軽く背中を叩いた。
「…ごめん、ごめん。大きな声出して悪かったァ。」
「許さないいぃ…」
「許してくれ。」
実弥ははぁ、と呆れたようなため息を吐き出した。
「全く、お前は……本当に後先考えてくれよ。」
「考えてるもん。」
「考えてるなら妊婦なのにあんなに派手に動く奴がいるか。本当に肝が冷えた…。」
実弥ははぁ、とため息をついた。