第8章 あの中に
久しぶりに見る寝顔。
…よく見たら顔色よくないし、疲れてたのかなあ。目の下にうっすらくまも見える。
そんな時にぐずぐず甘えて申し訳ない。私は実弥の腕から抜け出して、ソファーから立ち上がった。
ヨタヨタと歩いて自分の部屋まで向かい、ブランケットを手に取った。掃除はしてくれてたみたいだけどほとんどのものは手付かずでそのままだ。仕事もあっただろうに、よくここまでやってくれたなあ…。
リビングに行ってすやすやと眠る実弥の体にブランケットをかける。
ゆっくりさせた方がいいと思って私は自室に戻った。何をして過ごそうかと思った矢先にふっと力が抜けて、体が倒れた。
「……わ…!」
倒れ込んだ先に奇跡的にソファーベットがあって、軽い衝撃が背中に走った。
「危なかった…」
だいぶ回復したとはいえ、まだ満足に歩ける体ではない。これからは看護師さんもいないわけだから気をつけなくては。
ともあれ、このソファーベットの寝心地が何だか懐かしい。この部屋に引っ越してからはここで寝ていたのだが、実弥が布団をしまったと言っていた通り今は何も置かれていない。
「にゃあん」
これから何をしようかと考える私の隣におはぎがやってきた。ぴょんとソファーベッドに飛び乗り、私の顔の足元で丸まった。
「寝るの?」
「にゃあ」
「そう。おやすみ。」
おはぎに会ったのは久しぶりなのに、何でかそうではない気がした。
私も寝ようと目を閉じた時、服のポケットに入れていたスマホが鳴った。ディスプレイを確認すると電話をかけてきたのはカナエだとわかって、すぐに電話に出た。
「もしもし」
『もしも〜し』
少し控えめな声で挨拶を言うと、電話の向こう側から可愛らしい甲高い声が聞こえた。
『、退院おめでとう。今は実家にいるの?』
「ありがとう〜。ううん、元の家に戻ったよ。おばあちゃん達も年だから申し訳なくて…。」
『確かにそうね。』
何度か病院に来てくれてたし、久しぶりというわけでもない。けれど、今の私にはこうして話ができることがすっごく嬉しい。