第8章 あの中に
「やだ!決めた!何もしない!!」
実弥は困り果てたようにため息をついた。
「俺が悪かったから変な拗ね方すんなよ…。」
実弥は頬を引きつらせた。
今にも怒鳴りたいのを懸命に堪えてますって感じ。
そこで私はとあることを思いついた。
「…痛い」
「あ?」
「足、痛い」
薄っぺらい嘘だった。
「だから、実弥が抱っこしてくれないと動けないなあ…」
「…わかったよ」
実弥が私に腕を伸ばす。やった!と思って彼に体を預けると、実弥は私を抱き上げた。
「わあい」
「お前はリビングでゴロゴロしとけ」
「実弥は?」
「俺はやることあるんだよ。」
「何?」
「お前の布団、かたしちまったから用意しねえと。」
「実弥の布団で一緒に寝るから、それしなくていいよ。」
ぎゅうっと彼の体にしがみつく。ソファーに到着して下されても離さなかった。
「一緒にいよーよ」
「……はいはい」
「そんな投げやりに言っちゃやだあ…」
「わかった、わかった。悪かったなァ。」
勝手に泣きそうになっている私をソファーに座らせて、ぎゅっと抱きしめてくれる。
逞しい胸に顔をうずめて背中に手を回す。
「赤ちゃんかよ」
「…違うもん」
「……ん、そうか」
実弥の体温が心地よくて、ずっとそうしていた。
何か話せば怒られそうだったのでただ黙っていた。
そのうち心地よい寝息が聞こえてきたかと思えば、実弥の腕の力が弱くなった。
腕の中から顔を見上げると、実弥は穏やかな表情で眠りについていた。