第61章 人間
数十分夢中になって話し込んでいた時、おはぎがあばあちゃんの膝から飛び降りた。
そして玄関でピタッと止まり、ドアをじっと見つめる。
「どうしたのかしら」
おばあちゃんが不安そうに言う。
私はわかる。
あ、やばいと思う頃には玄関の扉が開いた。
「こんにちは。お久しぶりです。」
「あら、実弥くん。」
おばあちゃんが嬉しそうに名前を呼んだ。
………帰ってこないと思ってたのに。
実弥が家の中に入ると同時に目が合った。
家を出て行く時には持っていなかったビニール袋が見えた。何か買い物をしていたんだな、とわかる。
私が何か言う前に、静かにおじいちゃんが立ち上がった。おばあちゃんは何かを察したかのように黙った。
『あのジジイ、かなりキレてる』
おはぎが私の足元に隠れるようにフローリングに座り込んだ。
おじいちゃんは帰ってきたばかりの実弥に近づく。自分に向かってきていることに気づいた実弥はビニール袋を置いておじいちゃんと向き合った。
おはぎのいう通り、おじいちゃんから怒りの感情が伝わってくる。ただ事ではないと思ったようで、実弥も真剣な顔だ。
「どういうことだ」
怒気を含んだ声だった。今まで聞いたことのないような。
「結婚の挨拶に来た時に聞いたはずだ。息子夫婦がしたようなことを、と君たちの子供にしないかと。それに対して君は誓ってしないと答えた。
どうしての頬は腫れているんだ?」
え、と私が驚いているとおはぎがごろごろと足元で喉を鳴らしていた。
『ほれ見ろ。めっちゃ怖いぞあのジジイ。』
私は慌てて口を挟んだ。
「お、おじいちゃん…」
その瞬間、おばあちゃんがじっと私に視線を送る。そして静かに首を横に振った。黙れ、と言われているような気がして言葉が詰まってしまった。