第61章 人間
テーブルの椅子に二人を座らせ、私は紅茶を出した。
そして手土産として持ってきてくれたお茶菓子を出す。私はソファーに腰掛けたが、二人は私を見てポカンとしていた。
家に来たのはおじいちゃんとおばあちゃん。
…一応実弥にも連絡入れたけど、返事はない。多分帰ってこないつもりだろう。
二人ともたまたま近くを通ったというので寄ってくれた。
おはぎに会いたいと言うので、家の中でくつろいでもらうことにした。
思えば二人が来るのは初めてだ。
「ほら、この子がおはぎだよ。」
おはぎを抱き上げておばあちゃんと視線を合わせる。
「ま、まあ、可愛い」
「人見知りなんだけど、おばあちゃん達は大丈夫みたいね?」
「そう…」
おばあちゃんの膝の上におはぎを置くと、おはぎはごろごろと喉を鳴らした。
『悪くない』
…どうやらお気に召したらしい。おい、随分と上からだな?
「そういえば…実弥くんは?今日はお出かけ?」
恐る恐ると言うようにおばあちゃんが聞いてきた。私はその不自然さに気づきつつ、にこりと笑った。
「そうね。今はちょっと出かけてる。タイミングが悪かったね。」
本当に最悪。
でも悟られないようにしないと。二人が知る必要のないことだから。実弥は今ちょうどいないし、このまま乗り切ろう。
「それで、あなたそのほっぺはどうしたの?」
「ほら、台所のあの棚から調味料の瓶を落としちゃって。」
咄嗟に言い訳を作った。
おばあちゃんがほっとしたように笑うのを見て、私もほっとした。
「それより、あなた体調はどうなの?もう。挨拶依頼、何も音沙汰がないから私たちも不死川さんも本当に心配してたんですからね。」
「体調の方は落ち着いてきたよ。あと……」
私は久しぶりに二人との会話を楽しんだ。
……ああ、これが私の爪の悪いところというか…。
会話に夢中なあまり、ポケットの中のスマホに着信が入っていることに気づくことはなかった。