第8章 あの中に
久しぶりに自分の部屋に入ると妙なことに気づいた。
「…どうしたんだよ。」
「……私の部屋、なんか触った?」
「あ?」
「いや…私の部屋っていうか…。」
私はヨタヨタと家の中を歩き回った。
お風呂場、リビング、実弥の部屋…。
「お友達でも来てたの?」
「…あ?」
「知らない誰かの気配がする。」
私が聞くと、実弥の感情がぐらついた。
「まあ…。一人泊まりに来た。」
「…私の部屋にも入れたの?」
「そんなことは…。」
「まあ寝るところ他にないもんね。ソファーで寝かせるの可哀想だし。」
久しぶりに自分の仕事用の椅子に座る。続いておはぎがぴょんと作業机に飛び乗る。
「…おい。」
「何ー?」
パソコンの電源を入れていると実弥が肩を叩いてきた。
「まさか仕事やる気か。」
「え。だって絶対たまってるもん。」
「いい加減にしろ。画面割るぞ。」
私が入れた電源を実弥が落とす。
な、なんてことをッ…!!!!!
「そこらへんのことは春風さんに聞け。…あの人が全部やってくれてる。」
「ええっ。何でもっと早く言わないの!じゃあ今から行ってくる。」
「だからいい加減にしろ。」
実弥の声がワントーン下がった。
「もう何もするな。」
「え?生きていけないんですけど。」
「いいから。……はあ、俺はお前が寝てる間に色々とムカつくことが増えたっていうのに。」
「は?」
首を傾げる。
「実弥は何でそんなに怒ってるの?たまには文句言わずにぐずぐずに甘やかしてよ!!」
「俺がそんなことすると思うか?」
「思わないけど!思わないけども!!」
私はむっと頬を膨らませた。
「…実弥くん」
「あ?何だよ」
「もう何もしません」
「おう、そうしろ」
「立たないし歩かないしご飯も食べない」
「は?」
「何もしない」
実弥の顔に青筋が浮かぶ。
「じゃあお前本当に生きていけねえだろ」
「やさし〜い彼氏があー!お世話してくれると思うのでー!なあ〜んにもしませーん!!!!!」
私はやけになって叫んだ。力を手放してだらん、と椅子に全体重をかける。
体がずり落ちそうになると、慌てた様子で実弥が支えてくれた。