第60章 あの日を忘れない
意識がシンクロしていなくてもわかる。
実弥は、とっても面倒な勘違いをしている。
「あの〜」
「あ?」
「……アレハ、前世ノ話デスヨ?」
冷や汗が止まらない。
ええと、上手く誤魔化せる方法は…言い訳は……。
精神で繋がったとかファンタジーな話をして信じてくれるとは思えない。
前世の話って言ったら今生とは関係ないし大丈夫でしょ。だからこれでこの場を凌ごう。
と、思っていたんですけど。
「……否定はしないんだな」
「ん?あ、え〜とですね?前世ですからね?」
「しらねぇよ」
あ。
やばい。
そうでした。実弥は、前世の、そう。悲鳴嶼先輩とのことも、よく思わない人でした。
心の中の私が叫んでいる。
もうだめだ。詰んだ。こっからは巻き戻せない。
「えーーーーーと…不可抗力?仕方なかった?まあー物理的なダメージはないというか…いや、別に、ほら、私、……“そういう”こと…嫌いだし…」
「……」
「……………お、怒らないでよ〜イヤだなぁ。前世ですよ〜???」
実弥の顔は怖い。気配も怖い。
おはぎが毛を逆立てて鳴き出すくらい怖い。
「……そうかよ」
ええと、言い訳。
なんかうまいこと言ってここは逃げないと。
「今生じゃ“繋がった”なんてことないよな?」
「あ!もーそりゃもちろ……」
ざざっ、と壊れた昔のテレビのように頭にとある記憶が流れる。
目の前に、不気味に笑う無惨の顔。
その後ろにシミのない綺麗な天井。
………これは。
誘拐もどき事件の……。
『わからないほど子供ではないだろう?まさか、生娘とは言うまいな?』
『ハハッ。暴れたところでどうにもならんぞ。』
『お前の顔は美しい。……そして、体も。苦労してお前の母親に縁談をこじつけたことも報われると言うものだ。』
一言一句違わず言葉が流れ込んでくる。
……ああ、これは。
優鈴の言った通りになってしまったみたいだ。