第60章 あの日を忘れない
収納付きの良い二段ベッドがあったのでそれを購入し……たかったのだが。
「し、新婚なのでしたら二段ベッドよりもツインの方が……」
店員さんがまさかの実弥の肩を持つという事態になり、無事敗訴。
そして折衷案として二つのシングルベッドを買うことで落ち着いた。
………新婚の期間終わったら買い直してやる
いや、新婚の期間っていつよ。
とりあえず一年は待つか。
家具屋から出るときには実弥はご機嫌だった。私は何だか悔しかったが引き摺らないことにした。
「どっか喫茶店でもはいって休憩するか。」
「ああ…。」
実弥に話しかけられて注意力が散漫になった。
そのせいで同じタイミングで店から出てきた他の客とぶつかってしまった。
「あ、すみませ」
「いえこちらこ」
お互い、最後の一文字が出てこない。
目があった瞬間固まった。
「……………無惨…あなた、何してるの…?」
「それはこちらのセリフだ。」
相手は最悪の相手に会ったと言わんばかりに顔を硬らせていた。
「ッ鬼舞辻!?」
「………風柱…」
無惨は私たちを交互に見比べ、面白いおもちゃでも見つけたかのように笑って。鼻で。
「……そうか。お前の相手はソイツか。」
無惨はクックと喉を鳴らして笑った。
「滑稽だな。祝福してやろう。」
「うるさいな!!祝う気があるなら袋はち切れるくらいのご祝儀よこせ!!!」
「品のない発言は避けるべきだな。」
私が親指を下げると無惨は中指を立てた。
ふーっ。いっけない殺意殺意(冗談)!!
「おい、もう行くぞ。」
実弥が明らかに無惨を警戒していた。
その必要はないのだけど…きっと無惨相手にはまだ割り切れないのだろう。気持ちの整理はそう簡単にできるものではない。
「霧雨。身重であまり無茶をするなよ。」
「してないわ!!」
「ふん。…通常時より歩幅が狭い。具合が悪いという証拠だ。」
あっさりと無惨に見抜かれ、私はぐうの音も出なかった。
……まあ、今日はそこまで調子の良い日でもないけれども。