第60章 あの日を忘れない
そうはいってもみんな何かしらのことで疲れている。
私は力がある分、疲れないことも絶対にある。
「大丈夫よ。生まれた時からこの力は私にあるんだから。」
人の感情が色濃く感じられて、何度苦しんだことか。
自分へ向けられる負の感情ほど存在感が濃い。目の前に壁のように立ち塞がる。
大丈夫と言えるようになるまでどれほどかかっただろうか。
本当は大丈夫でもなんでもなかったのに。
部屋の片付けも終わり、ちょっと気晴らしに出かけようと言うことになった。
寝室を一緒にしたから寝具を新調しなくてはいけなくなってしまったのだ。というわけで家具屋にきたのだが…。
「いや、それじゃなくてこっちのシングルベッドを二つ買おうよ。」
「ちげえよ。こっちのツインを買うんだ。」
「寝室を一緒にしたんだし同じベッドの意味は特にないよね。二人で別のベッドにしようよ。」
「断固拒否」
「なぜだ」
実弥は頑なだった。
「もう、これからそんなにくっつくことないでしょうよ…」
「………」
実弥は何も言わなかったが、じいいいっと強い意志を含んだ目で私を睨んできた。
「ううん、買わない。そんな顔されても買わない。」
無言。しかし、言葉にしようのない圧があった。……いや、私も負けねぇし。つか負けるわけにはいかねぇし。
「あの狭い部屋にこんなの置いたら他に何も置けなくなるよ。収納のついたシングルベッドを二つ買った方が私物も分けられるじゃん。何ならもう二段ベッドでいいし。」
「………」
「買いません絶対買いません。」
「…俺が金出すからァ……」
ついに実弥はしゃべったが、私は首を横に振り続けた。
「すみません店員さん。二段ベッド見せてください。」
そんな実弥を無視して、私は勝手に店員に話しかけた。