第60章 あの日を忘れない
見慣れない部屋の形におはぎが落ち着かないのかウロウロと歩き回っていた。
ようやく落ち着いた実弥は先ほどからじっと私のお腹の上に手を置いている。しかもものすごく恐ろしい形相で。
「…そんなことしていても動かないと思うけど」
初めて私のお腹を蹴った日から、頻繁にぽこぽことかすかな動きを感じられるようになった。
報告するたびに実弥は悔しそうに唸るのだが…お腹の子が動くときは決まって実弥がいない時間なのだ。
「今日は気配が静かだから寝てると思うけど。」
「っ!?…お、お前……自分の腹の中の気配までわかるのか?」
「?わかるよ。私が妊娠わかったのも気配を感じたからだもん。」
あれ?実弥に言ったことなかったっけ??
「元気がなさそうな日は私も休んでたし、仕事をしていたのは元気そうな日だけだよ。」
「……………マジか」
「え?引いてる??」
えーーーーーーーー私の力のことなんて今更じゃん!?まさか引かれるとは…予想外すぎて!!!!!
「…そういや、あんま聞いてなかったけどお前の力ってどこまでわかるんだ?」
「ああ……そうだねぇ。」
私は目を閉じた。
…言葉にするのは難しいけど。
「そうだねぇ。一応、距離に際限はないんだけど…。特定の個人を判別するのは、このマンション一体が限界かなぁ。あと人混みとかだと思考が落ち着かないから役に立たなくなる。
でも、私の意識が外に向いていない時はわからないんだよね。けっこう神経使って疲れるから、中学の時みたいに意識的に使わないようにしてる。今は無意識で使える範囲におさめてる、かな。」
説明し終えた後、実弥はポカンとしていた。
「………疲れる、のか。」
「え?あ、うん。疲れるよ。無意識で使ってたらそんなに負担ないけど。」
………あれ?
これ…言ったことなかったっけ?
でもさ、私が周りに人がいると寝られないこととか知ってるだろうし。あっでも『力使いすぎて疲れた』とか言ったことはないかも。いや言うようなものでもないけれども。