第60章 あの日を忘れない
実弥は有言実行の男だった。
部屋を改造すると決めれば早速動き出したのだ。
「……手伝おうか?」
「座ってろ」
せっかくの休みを返上してテキパキと働く姿には感心する。
実弥の改造計画は、こう。
寝室は一緒。
個人のスペースは消滅させ、私と実弥の部屋と合同にする。
そして、私の仕事道具一式はリビングに移動。
「もうお前の好きにはさせねェ。」
血走った目でそう言われては黙るしかない。
………私の信用はどこに行ったのだろうか。
「よし、こんなもんか。」
「おお、だいぶ見違えたね…。」
私がやったことと言えば換気のための窓の開け閉めくらいで、後はぼうっと座っていた。
「…まさかリビングに仕事場ができちゃうとはねぇ。」
「お前が何回言っても休みなしで仕事やるからな。」
「はい大変申し訳ございません。」
こう言われては頭が上がらない。
「まあ…でも、そのうちまた引っ越した方がいいのかもな。」
「…引っ越すの?」
「そりゃ、一人増えるんだからよ。」
お腹の子のことを言っているらしい。……まぁ赤ちゃんの時はいいかもしれないけど、大きくなるとここだと狭いよね。
「もっと大きなところに引っ越すってこと?」
「そうだな。しばらくは金貯めて……。」
実弥は夢を見るように呟いた。
「自分たちの家も欲しいもんな。」
私は他人事のようにそれを聞いて、適当に頷いた。
…家を建てるってことだろうか。購入する…でもまあいいし。いくらくらいかかるんだろう。そうなるとローンとかかな。
(フリーランスって住宅ローン組めるのか?)
軽く頭痛と耳鳴りがしたが気づかないふりをした。
そして、極力この話題を避けようと心に誓ったのだった。