第60章 あの日を忘れない
その真剣さに思わず身構えてしまう。
「いいか?俺らもまだ若いとはいえ、25歳だ。再就職するって言ったらそろそろじゃないか。」
「はあ…」
「会社員じゃなくてもパートとかだな…。」
実弥はウンタラカンタラいろんなことを話してくれた。
「……………そうなのかあぁあぁぁ」
長々とした話の後、私はため息まじりにそう言った。
「そうねぇ。そうだねぇ。働き方にも色々あるよね。」
…気がやられるなあ。実弥がたくさん話してくれたのに悪いけど、一応答えは決まっているから。
「……………できれば…今のままがいいんですケド……」
…怒鳴られそうだけど、一応素直に言った。
しばらくの沈黙が痛いくらいで、ちょっとビクビクして彼の返答を待った。
「理由は?」
「へ?!あ、え、えーと……。」
私はきょどりつつ答えた。
「好きな時に……好きな絵が…描け、マス」
まるでロボットのような棒読み。
私はまだポツポツと続けた。
「だから……好きに続けたい」
実弥はそれを聞いてガシガシと髪をかく。怒っているかと思ってが、気配はいたって静か。
「……そんな感じ、なんですけど」
あまりにも静かで怖かったので、私は実弥の反応を促した。
「ならそれでいいんじゃねえか」
実弥はいつもの調子でそう言った。
「ただし」
が、いつもにはない言葉が続いた。
「お前自分の体そっちのけで仕事に没頭してたら俺にどんだけ怒られるか覚悟は出来てるんだろうなあああぁァ」
「ひゃっ!ひゃい!!!できておりましゅ!!!!!」
「日付変わる前には寝ろよ…!!!」
「え、ええ〜……締め切り前くらいは………」
「ア????????」
「いいえなんでもありません」
あ、そうか。朝早く起きればいいんだ。
……3時くらいに起きてやれば…。
「毎日6時間寝ろ。」
「え」
「……チッ。やっぱり部屋ン中改造するかァ」
実弥はぽつりと呟いた。
「??改造?」
「俺が寝た後もお前が仕事やるの防ぐためによォ」
「な、なんのことだお?」
「キッツ」
「………うるさいお」
私はぷくっと頬を膨らませた。
まさかバレていたとは。うん、確かに締め切りがやばくてそう言うこともしてたけどさ!