第59章 雪嵐
少ししんとした沈黙のあと、優鈴は打って変わってシュンと肩を落とした。
「でも、怒ってたからとは言え悪かったよ……」
「何が?」
「…ひどいこと言って……その、竹刀もお前に投げてしまったこと…。本当にごめん。」
ああ、そのことかと納得する。私は笑って首を横に振った。
「いいよ。当てるつもりなかったんでしょう?」
「……すんでのところで、しまったって思って…ギリギリ軌道は変えられたけど、結局投げてしまった。」
「そんなの気にしてないよ。私よりあなたの方が重症なんだから。」
「…いや、でも」
珍しくゴニョゴニョと言葉をにごす。珍しい。いつもズバッと言ってくるのに。
「何?」
「…」
「なぁに?」
「……………めちゃくちゃ叩いちゃったこともあるし。」
…?
ああ、なるほど。そうか。
桜兄弟が事故に遭った時、桜ちゃんの病室の前でのことを言ってるんだ。
「そのことに関しては謝ってもらったわ。それに気にしてないもの。」
「……でも、さ。すごく適当に謝っただけっていうか。それに、あの状況の謝罪だと許さざるをえなかっただろうし。」
私はそんなことないと言ったが、その時のことを忘れかけている私と違って優鈴は随分と気にしているようだった。
「ごめんね。」
「いや、だから、怒ってないっていうか…。私だって誰よりも先に竹刀投げちゃったし。」
「それはいいよ。キャッチしたしさ。でも、なんていうか、本当に申し訳ないって思ってて。」
「嫌だなぁ、今更あなたにどんなことされても何も思わないよ。そんなに薄っぺらい仲じゃない。わかってるわ。」
「…そう?」
「そうよ。」
優鈴は控えめに笑った。
「それに、優鈴は優しいからね!」
「何だよ。それを言うならお前だってポンコツだろ。」
私は笑い返した。
…ともかく、今回の件はこれで落ち着いたかな。