第59章 雪嵐
その後、優鈴と実弥は救急箱で顔の治療をした。ハルナちゃんは転んだことが恥ずかしかったのか、クッキーを置いてさっさと帰ってしまった。
実弥はハルナちゃんを送っていった。…流石に、この雪の中をあのヒールのブーツで帰すわけにはいかなかったし、何より優鈴に送らせるのは派手の転んだあの子にとって酷だろう。
今度は道場を出て優鈴の家のリビングのテーブルで話をすることになった。
「道場じゃなくていいの?」
「…いいの。」
私はその様子に思わず笑ってしまった。
「何だよ。」
「あなた、こうなることわかってたでしょう。」
「あ?」
優鈴は怒っていたが、私はすでに確信していた。
「陽明くんね。当たり?」
「………当たりです。」
そして、あっさりと白状した。
「不自然だもの。一番最初に『電話でできない話をする』って言ったわりに、いつもの優鈴なら電話やメールで事足る話だったもの。」
「あ〜…わざとらしかったか。お前なら騙されると思ったんだけど。」
優鈴は罰が悪そうに机に突っ伏した。
「そうだ。目的はお前じゃなくてシンダガワだった。僕が呼んでもアイツ来ないだろうし、お前を使った。呼ぶなら陽明くんが家の中よりも道場がいいって言うから、そうしたのさ。
…その…まぁ、竹刀使ったのは…悪かったよ。アイツのことも、馬鹿みたいに殴ってしまって申し訳ない…。」
どうやらそこは反省しているらしい。
「あんなに怒った優鈴初めて見たから…怖いって思っちゃった。」
「怒るってそう言うことじゃない。お前も同じでしょ。」
「……私は…そうなのかな。」
「そうだよ。怒った人は怖すぎて近寄りたくないもん。みんな同じだよ。」
さも当然のように言う優鈴。
何でこんな当たり前のことを新鮮に感じるんだろう。怒った人は怖いのに。
私だって例に漏れず、ちゃんと“みんなと同じ”ということが、少しだけ嬉しいように思えた。