第59章 雪嵐
腕をつかまれたことでハルナちゃんは真っ赤になった。優鈴はそれを見てすぐに手を離す。
「……………」
「……………」
沈黙。
黙り込む二人を前に、私と実弥は顔を見合わせた。
「救急箱とってくる」
しかし、優鈴がさっと立ち上がり控え室へとさっさと消えてしまった。
噓の気配がする。
………これはハルナちゃんが帰るまで出てこないかも。
そう思ったが、優鈴は救急箱片手にずかずかと大股で戻ってきた。
「クッキー置いてさっさと帰って」
優鈴はすごんでハルナちゃんに言った。
しかし、顔はひきつってるしなんかプルプル震えているし…無理してるのがバレバレだ。優鈴、やっぱり優しいんだよな…。
「わ!私が!!治療します!!」
「は」
ハルナちゃんは箱を手に取って適当に包帯やら湿布やらを取り出し、優鈴に迫った。
「あああああああ!!!もうやめてってば!俺に構うなあああぁぁぁぁぁ!!!」
「木谷さん!待ってぇ〜!!!」
限界を迎えた優鈴が道場から雪の積もる外へと飛び出す。ハルナちゃんがそれを追いかけ、同じように雪の中へと飛び出した。
ひとまず私と実弥は様子を見るためだけに外へ顔を向けた。
「きゃああ!!」
優鈴は体幹おばけだから足場の不安定な雪の上でも平気だが、ハルナちゃんはそうも行かない。足を雪に取られたようだ。悲鳴をあげて顔から雪に突っ込んだ。
「え?え?」
漫画みたいな盛大なコケっぷりに優鈴は戸惑う。
「ウッ……はじゅかしい…」
「大丈夫?」
ハルナちゃんはハッとして顔を上げるも、すぐ雪に顔を埋めた。
「…顔に霜焼けできるよ」
「は、恥ずかしいので…このまま雪に埋まります……」
「恥ずかしいって……雪積もってるにそんな靴はいてくるのが悪いね。」
確かに。あれヒールのブーツだもんなぁ。
でも服装とかから見て察するに、優鈴に会うから一生懸命おしゃれしたんだろう。そこは褒めてあげようよ。