第59章 雪嵐
「生きられたのに死んだことを、いい顔をしたいせいで人を傷つけたことを、お前は許せないんだろう。」
優鈴はまた独り言のように呟いた。
「…前世でお前と会った時…僕は柱で、君はまだ階級の低い隊士だったけど。今は、イーブンだ。」
だから、と優鈴は続けた。
「だから、謝るよ。」
「…木谷さん」
「ごめん。」
謝罪の真意は。
優鈴は、実弥に対して、何を謝ったのか。
実弥は許せなかった。理解できなかった。ずっと、優鈴を嫌っていた。
対して優鈴は自分のことを理解してほしかったのだ。
そっと実弥に手を差し出した。
「僕はお前と友達になりたい。」
「……」
「敬語をやめて、名前で呼んでほしい。」
優鈴は微笑んだ。
「…そして…言わせてほしい。“風柱”を繋いでくれて…ありがとう。」
ありがとう、と言う言葉が終わる前に実弥はその手を握っていた。
実弥も青あざだらけのひどい顔だったけれど。
「優鈴」
初めてその名前を呼んだ。
「……っ」
優鈴が顔を下に向ける。
その頬に、涙が流れていた。
私は実弥から体を離し、その光景を見つめていた。
「何だよ」
「…お前が呼べって言ったんだろうが」
「くっ…ククッ、ひっどい顔」
「ふざけんな、お前のパンチのせいだよ」
笑いながら話す二人は、まさしく友達そのもの。
私はクスリと笑った。
……が、鼻血が流れっぱなしなことに気づいてハンカチで鼻をおさえた。