第59章 雪嵐
その時実弥の体制がぐらっと傾いてしまい、実弥の肘が私の顔面にクリーンヒット。
「ううっ」
「ッ」
実弥はそこで止まったが、優鈴は最後の一発と言わんばかりに実弥の顔面に右ストレートを決めた。
「ううぅッうう…うええええ〜ええ〜〜ん」
私は声をあげて泣いた。
たらり、という感覚が鼻の下にあった。涙だけでなく、鼻血まで出てきたらしい。
「ごめんなさい、ごめんなさい、なんでもするから、どならないで、なぐらないで」
ぎゅうううっと実弥に抱きつく。
優鈴はまだげしげしと実弥を蹴っていたが、しばらくして止まった。
「…」
「ごめんなさいごめんなさい」
壊れたように謝り続ける私を優鈴はじいっと見ていた。
「シンダガワ」
「…何だよ」
「僕は、君とは違う」
ばたり、と地面にその体を放り出し、青あざだらけの顔を天井に向けた。
「君ほど体はたくましくないし、優しくもないし、大したやる気も持ち合わせてはいない。」
「………」
「小さい頃から不思議な力のせいで虐げられた。だから僕は鬼殺隊に居場所を求めたんだ。居場所が見つかったと同時に、その居場所を失うことが怖かった。
居場所を出たくなかった。鬼殺隊を引退すれば、僕にはもう居場所がない。だから、鬼殺隊のままで死にたかったのに、生き抜きたかったのに、僕はひどい怪我をしてしまって……。」
優鈴は、独り言のように話していた。
「誰にも嫌われたくなかった。だから、誰にでもいい顔をした。」
それは、私も初めて聞く話。
「最後まで、いい顔をした。いい顔をして死んだ。」
「……」
「に対しても、だ。ハルナちゃんにも。いい顔をしたくて、傷つけた。」
優鈴はギロリと実弥を睨んだ。
「しかし、こんなにムカついたのは久しぶりだよ。」
そして、ゆっくりと上半身を起こして床に座った。