第59章 雪嵐
ビリビリと、体の底に響く音。
張り詰めるような気合いと緊張の中、二人はぶつかり合っていた。
やや優鈴が優勢。
優鈴は決して弱くない。むしろ強い。実弥もつよいけど、実力では頭ひとつほど違う。
優鈴は負けたことがない。
鬼相手では死ぬまで不敗の柱だ。
よくわかる。そばにいたから、わかる。
実弥とは優鈴は違う。
実弥が台風なら、優鈴はそよ風。優鈴は確実に、そして静かに、猛威を振るう攻撃を繰り出してくる。
実弥にとっては油断なんてできない相手だ。自分が劣勢なことは自覚しているようで、先ほどから積極的に攻めている。
それでも優鈴にはほとんど当たっていない。
「ふ、二人とも」
先ほどから一応声をかけているのだが、夢中になっているようで聞いちゃいない。
二人がぶつかり合うたび道場が揺れる中、私は拳を握りしめた。
どうしよう。
これは違う気がする。
二人が仲悪いっていうか、あまり良い関係でないのはわかっていた。でも、こんなふうに…。
終わったら二人はどうなるんだろう。仲良くなるのかな。そうは思えないけど。
意を決して立ち上がり、私は二人に巻き込まれないように器具庫に入った。
中に置いてある竹刀を一本手に取った。
「……ここで止めないと」
ぐっと強く握りしめた。
「でも、止めてどうなるの…?」
これからも、二人はあのままの関係なのだろうか。
仲良くはならないのだろうか。
そもそも仲良くなることが、二人にとって良いことなのだろうか。
「………私なら止められる…でも……止めてはいけない気がするのはなぜ…?」
乱れる頭の中がうるさい。
耳鳴りが、頭痛が止まらない。嫌な予感がした。
「優鈴は実弥に歩み寄っていた。…でも実弥はそれを拒んでいる。」
これが最後の歩み寄りなのかもしれない。優鈴の、残酷な優しさ。
ぶつかり合うことで決着をつけようとしている。もし自分が負けたら、実弥が拒み続けていることさえ受け入れようと言うのだろうか。
実弥は、どうしても優鈴を拒もうと言うのか。
「………!」
気づけば私は器具庫から出ていた。
「二人とも、止まりなさあああーーーーーいッッッ!!!!!!」
考えるよりも先に手が出る。
それが私だ。いや、でも考えたほうじゃないかな。私にしては。