第59章 雪嵐
実弥がタオルでゴシゴシと私の涙を拭ってくれる。
もう、それだけで幸せ。
……おはぎもいたらもっと嬉しいんだけどなあ。まだ酒臭いって言ってきてくれないだろうか。
そんなことを考えていた時、体に違和感があった。
「どうした?」
実弥の顔が険しくなる。
どうやら顔に出ていたらしい。私の顔は今どうなっているのだろう。
泣き腫らした、間抜け面なんだろう。
「…?」
「……」
そうしているうちに、さっきの違和感とは比べ物にならないほど、ポコンという確かな衝撃を感じた。
「…………………………」
「おい、?」
「動いた……かも」
何が、と言いたげな実弥をよそに私はお腹に手を添えた。
それを見た実弥が、すぐにガバッと起き上がった。何事かと思ううちに私のお腹に手を置いた。
「……も、もう一回動いたりしねェか?」
「……どうだろうね。」
数十分そうして粘ったが、変化はなかった。
初めてお腹の子が動いたという事実に、私はなんだか安心した。
生きているんだ、と実感することができた。
「……お前、けっこう腹膨らんでねぇか…?」
「え?そう?太ったのかと思って全然気にしてなかった。」
フフッと笑うと、実弥は一気に鬼の形相になった。
「阿呆か!!!!!!!!!!」
「ヒイィ」
「なんでお前はこんな体であちこち動き回ってんだよ!!寝ろ!今すぐ休め!!!そんで寒そうな格好すんな!!!あと3枚は重ね着しろ!!!」
「ええええええええええええええええ」
「お前、あーーー!!意味わかんネェ!!!こんなに腹が大きくなってんならしんどいだろうがッ!!!言えよ!!!」
「い、言うほどのことではないかと…ていうか、実弥が大変だって聞いてたから、慌てて帰ってきたんだよ…?」
「慌てんな!落ち着け!!ゆっくり動け!!!」
優しいのか優しくないのか。
実弥はしばらく大きな声で叫んでいたが、そのうち二日酔いの頭痛を思い出して大人しくなった。
……正直、助かった。