第58章 爆発する音
帰りのタクシーの中では大人しかった。ぼうっとしたような、不機嫌そうな横顔と、寝癖が微かについたホワホワした髪の毛がなんだか可愛く見えた気がした。
マンションの部屋の中まで戻れるのかと思ったが、おぼつかない足どりでもちゃんと自分で歩き、部屋の中まで戻ることができた。
ここにくるまでずっとゲージに入っていたおはぎはようやく解放され、ご機嫌でそこかしこを闊歩していた。
しかし、実弥に近づくや否や『酒くっさ!!!!!』と絶叫して台所へ飛び込んだまま戻って来なくなった。…猫には我慢できなかったらしい。
流石に実弥を引きずることはできないので、ゼエハア言いながらソファーに寝かせた。風邪をひかないように毛布を被せ、そこで私も限界だったので自室のソファベッドに寝転んだ。
おはぎはダッシュで私についてきて、なるべく実弥から離れるように布団の中で丸まった。
「…先が怖くて眠れない」
『ああ、俺も怖い。もうあの匂いは嗅ぎたくない。』
「いや、匂いが怖いんじゃなくてね…これからのことがね…多分、実弥が目が覚めた時がいっちばん大変だと思う。」
こんな会話をしつつ、ただ横になっていた。私は別に眠たくなかったし、おはぎが興奮気味に話していたから。
おはぎは家猫だから、いろんなところに連れ回したせいで落ち着かないのかもしれない。それは申し訳なかったな。
『お前はいつも面倒事ばかり請け負う。放っておけばよかったのではないか?』
「放っておいても面倒だよ…いや、面倒だとは思わないけどね。泥酔することくらい、よくあるよ…。」
『お前もああなるのか?頼む、酒なんてやめてくれ。』
「…安心しなよ。今は飲めないし、あと…私は泣くだけだし。」
私は泣き上戸だけど、実弥の場合は何なんだろうか。私も意識がなくなるまで飲むことなんて学生時代はよくあったから文句なんて言えないけど。
「おはぎに悪影響だし、気をつけるように言っておくね。私も気をつける。」
『是非ともそうしてくれ』
おはぎの切羽詰まった様子からして、かなりトラウマだったらしい。…かわいそうに。本当に気をつけよう。
おはぎをぎゅっと抱きしめ、いつもより丁寧にその体を撫でてあげた。