第58章 爆発する音
何とか時透父をかわし、有一郎くんの怒涛のずるいずるい攻撃もかわし、その場は収まった。
「じゃあ、これで失礼させていただきます。ほら、無一郎挨拶を…。」
ようやく解放される、とホッとしていると無一郎くんは控え目にチラリと私を見た。
「師範、また…」
「うん、またね。」
「はい。」
ちょっとシュンとした様子が可愛らしかった。
「師範さんの家は近くですか?」
「…いえ、寄るところがあるのでタクシー使います。」
「そうですか。ではお気をつけて。」
いや師範さんて。
ていうかもう私は師範でもなくただの人間だから、この呼び方やめてほしいんだけど。
…まあいいや、とにかくタクシー捕まえよう。
無一郎くんが背中を向けたタイミングで、有一郎くんがこっそり私に耳打ちしてきた。
「弟のわがまま、聞いてくれたんでしょ」
「……」
「ありがと」
少し照れたように微笑み、私の反応も見ないままさっさと行ってしまった。
私はつられて微笑んだ。
いい兄弟だ。
…どうか。
どうか、今生では長生きしてくれますように。