第58章 爆発する音
一方で、有一郎くんは無一郎くんの行動に唖然として固まっていた。
父親は少し怖い顔つきで無一郎くんを見下ろしていた。
「……お前の気持ちはわかったよ。」
私は少し緊張した。
「それが聞けて、父さんは安心した。」
直後、表情が和らいだ。
その様子に驚いていると、父親は私に目を向けた。
「あなた、お名前は?」
「…不死川です」
まだ慣れない苗字を名乗る。父親はにこりと笑った。
「ところで、何の“師範”なんですか?」
「え」
「無一郎はあなたに何を教わっているんでしょう。習い事はさせていないつもりだったんですけど…。」
その言葉には棘などなかったが、私にはクリティカルヒットだった。いや待ってくれそんなの聞かれても言い訳準備してませんよ!?!?!?
「………しょ、将棋…」
「ああ!なるほど、そうなんですね!」
「ええ、そうなのか!?お前そんなこと教えてくれなかっただろ!!お前だけ教わるなんて…!!俺だって教えてもらいたいのに!!」
無一郎くんがキョトンとして私を見上げた。
『なんで嘘つくんだ?』とその目が語っている。私は話を合わせるように全力で表情で訴えた。
「だめだよ、僕の師範だから。」
「ってことはこの二日間、個人レッスンだったってこと!?本当にずるいぞ、無一郎!!」
「………」
いや、その、私、将棋のプロとかじゃないんですけど〜!!!
まあ将棋部だった頃は負けなしだったけどさ!!!教えるほどのものはないよ!!!
「まあ、二日間もお世話になっていたとは。ええと、月謝とかはどうなってるんですかね。」
「あ、いや、私、将棋部のOBとかその程度なので、特にもらってません。気にしないでください。」
「いやいや…あ!無一郎、お前その人形どうしたんだ!」
「師範が買ってくれた。」
「すみませんすみません!!お支払いします!!!」
「いや、結構です!!!」
駅でしばらく下らない問答が続いた。道ゆく人は私たちには目もくれず、忙しそうに通り過ぎて行った。