第58章 爆発する音
「師範を認めてくれないなら僕は家を出る。」
「うんわかった!ちょっと一旦落ち着こう!?」
思わぬ方向に話がいってしまい、私は無一郎くんを説得することにした。
「筋を通せってそういうことを言ってるんじゃないのよ!!お願いですこれ以上はやめてください!!」
「……え?違うの?家族がいるから一緒にいてくれないんじゃないの?」
「そんな鬼畜なこと私言ってない!!」
つまり、『家族がいると師範と一緒にいられないから家を出ることも辞さない』と言いたいようだ。
いやいやいや筋を通せっていうのはそういうことじゃなくて!!!
「筋っていうのは、君がいるべき場所にいることよ。」
「いるべき場所?」
「そう。まあ、例えば家ね。今回みたいに家を黙って出てこういうことをするのは良くないって言いたかったの。家族に説明して、納得してもらうことが筋を通すこと。」
「……ああ。」
どうやら納得してもらったようでホッとした。
訳がわからないというようにこちらを凝視している父親と兄に向かって、無一郎くんは一歩歩み寄った。
「……この人は…師範は…僕が一番困っていて、不安で、辛かった時に、助けてくれて、誰よりも大切にしてくれた。」
少しぶっきらぼうながら、言葉を選んで無一郎くんは真剣に話していた。
「僕が世界一尊敬していて、大好きな人なんだ。」
その声には力がこもっていた。その様子に圧倒されたのか、二人は黙って聞いていた。
「今回はね、僕がわがままを言って師範を連れ出してしまった。師範は悪くなくて、悪いのは僕。勝手にいなくなって、連絡しないでごめんなさい。」
無一郎くんが頭を下げる。
「師範と一緒にいたくて、みんなを無視した。本当にごめんなさい。でも、師範が僕にとって大切な人ってことを理解してほしい。」
言葉を紡ぐ姿に、鼻の奥がツンとなる気がした。
言葉が出るより手が出るような子だった。話すのが下手で、気持ちを伝えられなくて、たくさん問題を起こすような。
誰かに頭を下げるところなんて見たことがなかった。
(大きく、なったんだなぁ…)
当たり前のことだけど…体だけではない、中身の成長を目の当たりにしてなんだか泣きそうになった。