第8章 あの中に
素直におじいちゃんにおしてもらえばよかった。
蝉の声を聞きながら、じっとりと汗をかいて私は思った。暑い。くそ。体力がない。もう限界なんだが。
駐車場までのんびり移動する。おじいちゃんとおばあちゃんとの話時間ができて良かったと考えよう。
世間話にもならない下らない話をした。二人とも優しく微笑んでいて、日常が返ってきた実感がようやく私に訪れた。
駐車場に着くと、そこにいたのは実弥だった。車のドアに寄りかかってパタパタと手であおいでいる。…この季節だけはあの開放的な胸元が羨ましく見える。
「実弥くん、悪いわね。」
「いえ、全然。」
そして私を見てにこりと笑う。
「退院おめでとう」
「うん、いっぱいいっぱいありがとう」
「何だそれ」
バカにしたように笑う。けれど本当にバカにしていないのがわかる。
「じゃあ、頼むね実弥くん」
「はい」
まさか年老いた二人の元にこんなお荷物を置いておくわけにもいかず、私は二人で住んでいたあのマンションに戻る。
おじいちゃんがぎゅっと私の手を握る。
「、頑張り屋のお前に頑張るなとは言わないけど、体を大切にな。」
「うん。約束する。」
私ははっきりと返した。
二人にたくさん心配と迷惑をかけた。もうこれ以上あんな顔を見るのは嫌だ。
「いつでも帰ってきていいからね。」
「うん。電話もする。ありがとう。」
私は二人と談笑して、それから車椅子から立ち上がった。
もう限界だった。暑い。無理。きっと熱中症で死ねる。
「まあ!」
「お前立てんのかよ!?」
「車乗りたいー!!暑い!!無理!!クーラアアアー!!!!」
「まだ鍵開いてねェよッ!!!」
結局私は最後まで騒がしく、賑やかに病院をあとにした。
おばあちゃんとおじいちゃんとはそこでわかれ、私は久しぶりに我が家へ帰ることとなった。