第58章 爆発する音
帰りの電車はお通夜みたいな雰囲気だった。
無一郎くんが無口だ。袋から顔を覗かせるクレーンゲームでとった人形が悲しい表情をしている気がした。
(ちゃんと謝らないとな)
二日酔いなら、ドラッグストアで何か買って行こうか。
そんなことを考えつつ、私は寝ているふりをして謝罪のシュミレーションを繰り返した。
駅につき、二人でホームで降り立つ。…うん、順調にお腹が痛い。
「…無一郎くん。」
しかし、人の群れに逆らって無一郎くんは立ち尽くしていた。
その手を引こうとしても、動こうとはしなかった。
「帰りたくないです」
子供らしい、かわいいわがままに思えた。
「……師範と一緒にいたい」
それが本心なのだろう。気配がそう言っている。
「家族はどうするの?」
「……」
「今いる家族を放っておいてまで私と一緒にいてほしいとは思わない。」
私は無一郎くんの両肩に手を置いて、目線を合わせた。
「筋を通しておいで。私も謝るから。」
「……え?私もって…。」
「行こう。」
気配でいるのはわかっていた。
だから、私は無一郎くんの手を引いて進んだ。
改札を二人で出て、駅の出口に向かう。
「ッ無一郎!!!!!」
「お前、ばかっどこ行って…!!!」
出るや否や、声をかけられた。
そこにいたのは、無一郎くんの双子の兄の有一郎くんと…恐らく父親だろうか。どこかで見たような赤い目の男性だった。
「父さん、兄さん…」
「ああ、よかった無事で……って、その人は?」
父親は一目散に無一郎くんのもとに駆け寄った。そしてそばにいる私を見て顔をしかめた。警戒されているのが気配でわかった。
「この人は僕の師範だよ。」
私が何かいう前に、無一郎くんがバカ正直に答えた。
え、ちょっと待って。それで通じる?
「師範?」
「僕の師範。近寄らないで。」
「ええ…どういうことだ、無一郎?」
無一郎くんはまるでボディーガードのように両手を広げる。たまらずに私は頭を抱えた。
いや、話がややこしい方向に…。