第57章 ルピナス
巡り巡って今がある。
もっと素直に。気持ちをぶつけないといけない。
逃げていいはずがないんだ。あんなに私と真正面からぶつかってくれる人から、逃げちゃいけない。
決して怖くはない。
…だから。
だからこそだ。
「私の初恋も、強烈だよ。」
忘れることなんてない。
色鮮やかで、どこまでも綺麗な恋。
「いいなあ。」
無一郎くんがそう呟いて観覧車の外を見下ろす。ちょうど頂上に来ていた。
「私の気持ちに偽りはないし、無一郎くんを愛してるっていうのは、本当だよ。」
「はい。僕も愛してます。」
親子のような愛情。家族のような。
不思議な巡り合わせでこの子と出会った。血のつながりもなく、顔馴染みでもなく、ある日突然出会って、一緒に暮らし始めた。
手を繋いだ。
一緒に眠った。
散歩をした。
料理をした。
将棋で遊んだ。
裁縫を教えた。
刀を教えた。
そして何より、愛を教えてもらった。
大切なものを全て忘れて、何もわからない私が、ちゃんと“愛”を理解した。言葉ではなく、心で。
「…間違ったことをしたと思っていたの。」
「?」
「あなたを連れて帰った時、いけないことをしたと思った。刀なんて教えたくはなかったし、鬼殺隊として生きてほしくはなかった。」
何も知らない子供に刀を教える。
それは、辛い道のりだった。
「でも私は鬼殺隊しか知らないし、あなたに他の世界は教えてあげられなかった。それがずっと…一番心にあった。」
「…僕は、とっても幸せでしたよ?」
「……そう。」
私は外の景色に目を向けた。もう日が沈みかけていて、オレンジ色が空を支配していた。
「私も鬼殺隊でいられて幸せだったな。」
全ては、何もない私から始まった。
鬼のせいで苦しめられたのに、鬼があってこその鬼殺隊で幸せを感じるだなんて怒られるだろうか。不謹慎だろうか。
いいや、きっとそれは違うよね。
あれを幸せと言わないのなら、全部嘘になってしまう。
鬼殺隊が私の居場所だった。たとえ、受け入れられなくても。
私は鬼殺隊にいて良かったんだと、そんな風に思う。いろんな人に迷惑をかけてきたけれど、他でもない無一郎くんが、幸せだと言ってくれた。
少しは、誰かの役に立てたのなら。
私の存在意義も多少なりともあったのかもしれない。