第57章 ルピナス
確かになぁ。前世でのイメージを持ってたら何でどうしてってなるかも。
あ、いや、現世のイメージでも何でどうしてってなるわ。てか私が今なってるわ。
「……………嫌が八割だけど!残り二割の好きがその全部をカバーしてる…みたいな………!?」
「…全然わかりません。」
「でしょうね!」
えぇ~?
なんか突き詰められると答えられないな。
「………あーぁ、結局そうですか。」
無一郎くんがため息混じりに言った。また何か辛辣なことを言われるのかと思ったが、無一郎くんは薄く微笑んだ。
「そうですよね。言葉には、できませんよね。」
「あ、あの…」
「すみません、おかしなことを聞いて。」
「?」
「…僕だって、師範への気持ちはうまく説明できないです。ただ好きとしか言いようがなくて。」
クスクスと笑い出した無一郎くんに、私ははてなマークを飛ばした。……あれ、てっきり真面目に考えろとか言われて怒られるかと…。
「師範を諦められるような、納得のできる説明が聞けたらなって思ったんです。」
「…。」
「…そんなの、無理ですよね。きっと師範がすごくわかりやすいことを言ってくれても、僕は師範のことが好きです。」
無一郎くんの表情はどこか悲しげだった。…巌勝の言う通り、この子の感情は特別なものだったらしい。
どうして私は気づかないのだろうか。実弥の時も、優鈴の時も、全然わからなかった。
みんなが隠すのが上手いのか、私が馬鹿なのか、その両方なのか。
「……それだけ一途なら、無一郎くんと付き合う子は幸せになれると思うよ。」
「…そうだと、いいです。でも初恋が強烈だったから、師範以上に好きな人ができるかわからないです。」
初恋
儚い響きに、胸が締め付けられた気がした。
私は今、ちょっとだけ実弥と一緒にいるのが苦しいんだ。実弥は仕事を休んでまで私と一緒にいてくれているのに…正直、何も進展してない。ズルズル引きずっているだけ。
どうにかしたいけど、私が体調崩してしまって、童磨くんの件以来精神も不安定になった。だからどうしようもできなかった。実弥は優しいから、絶対私に無茶させないし、待っててくれる。それがどこかで申し訳なかったんだと思う。
確かに信頼はないかもしれないね。
まだまだ探り合ってる。たくさん、たくさん知らないことがあるよ。