第57章 ルピナス
それでも答えないといけない気がして、真剣に頭を悩ませた。
「行冥はもういないからだよ。」
「いますよ。悲鳴嶼さんは悲鳴嶼さんです。」
「違うよ。私の知る行冥はいない。」
少し深呼吸をして続けた。
「私の大好きな行冥は、泣き虫で、小言がうるさくて、強くて、ちょっとお茶目で…それでいて、鬼殺隊の岩柱でないといけないの。でももう鬼殺隊はないでしょう?」
「…そうですけど。」
ひとまず納得してもらえたみたいでホッとしたが、まだこの話は終わらなかった。
「でも、不死川さんは師範のことあんなに嫌っていたのにどうして師範と…。」
「それは〜…ええと、そんなに重要?確かに私のこと嫌いだったかもしれないけど、元々悪い子ではないと思ってたよ。」
ちょっと不器用で、それでいて気の短い子というイメージはあった。それに、私の最後には駆けつけてくれたし、涙を拭いてくれた。
おかげで一人寂しく死ぬことはなかった。
「師範は悲鳴嶼さんと不死川さんだったらどっちが好きなんですか?」
「ええ、そんなの比べようがないというか…。」
「いいから考えてください。」
無一郎くんの顔がまた強ばる。
その勢いに負けて、私は渋々答えた。
「そうだね…。行冥は私のことなんでもわかってたし、いつも信用してくれていたと思う。だから私が何をしても基本的にはノータッチだった。まあ、小言はうるさかったかな。でもね、私はその距離感が好きだったの。」
何かあるたびにいつも一人で逃げてしまう私を信じて待っていてくれる人だった。何があっても帰ってくるとわかっていたのかもしれない。
私が会いに行くと小言を言いつつ追い返したりしなかった。なんでも話せたし、なんでも話してくれた。
「実弥とは…正直、行冥ほどの信頼関係はまだないと思ってる。」
比べるようなことはあまりしたくないけれど、無一郎くんを納得させるためには正直に話さなくてはならない。
私は胸の内を素直に話した。