第57章 ルピナス
しかし、その恥ずかしさにも慣れてしまえば何も感じなくなった。
私は動きの激しい乗り物には乗れないし、十分に体を動かすこともできなかったけれど無一郎くんは不満そうな顔は一切しなかった。
本当に心から楽しんでくれているようで安心した。
ご飯を食べて、甘いものも食べて、ゲームセンターで無駄に大きな人形をとって、コインゲームをして、メリーゴーランドに乗った。
楽しい時間だった。
こんなに楽しいのは久しぶり。
思えば遊園地なんていつぶりだろう。
小さい頃に両親と来た以来かな。
楽しい場所だけど、やっぱり私は人の多いところに来ると疲れる。いろんなところにいろんな気配があって、その一つ一つに心がざわざわする。
「次、あれ乗りましょう。」
無一郎くんに言われて観覧車に向かう。
なんだかんだやっているうちにもう日が沈みかけていた。
二人で観覧車に乗り、ぼうっと外の景色を眺めた。
「師範はどうして不死川さんと結婚したんですか。」
しかし、静寂を切り裂いたのは突拍子もない無一郎くんの発言だった。
「………いきなりだね。」
「今なら師範は逃げないと思って。」
まあ観覧車で逃げられはしないけど…。
「すごくビックリしました。あの人、悲鳴嶼さんとは違うタイプの人じゃないですか。」
「ううん…あまり比べたくないけど、そうだね…。」
無一郎くんには行冥との関係を言ったことはないけれど、まあ…お互いの屋敷を行き来してるところとか、文通してるところとか見られてたしバレててもおかしくないよね。
…ていうか、改めてこんなこと聞かれるとやっぱり答えに困るな…。
「悲鳴嶼さんは納得しているんですか?」
「…納得っていうか…今はお互いにお互いを恋愛対象として見られないから、実弥と私の関係に不満があることはないと思うよ。」
「意味がわかりません。どうして好きだった人が好きじゃなくなるんですか?」
無一郎くんの表情が強張った。
…この子は、私になんと言って欲しいのだろうか。いまいち言葉の真意がわからない。