第57章 ルピナス
私が朝の支度を終えて、部屋に運ばれた朝ごはんに手をつけたところでようやく無一郎くんが起きてきた。
…疲れてたんだろう。申し訳ない。
「今日はどこかに行く?」
「っ、はい!」
まだ寝ぼけ眼のままで、無一郎くんは嬉しそうに笑った。
昔みたいに全部を手伝うことはできないけれど、長い髪を櫛でとかしてあげた。
着替えるときは流石に別の部屋に行ったが、それ以外は私にべったりだった。
「無一郎くんはどこに行きたい?」
「僕はどこでも…あっ、いや、師範と行きたい場所はたくさんあります…!」
「じゃあ全部行っちゃうか。」
私は細かいことは何も考えずに言った。
「二人で丸一日遊んじゃおう!」
「はい!」
お母さんへの送金を気にしなくてもよくなったので、お金に余裕はあった。ていうかこんなこと言うなんて久しぶりに寝たせいか思考がふわふわしてるな。
「ええと、ゲームセンターと、観覧車と、ご飯食べに行くのと、一緒にお買い物もしたい…。絶対に甘いものを食べるっていうのは譲れないし……。」
何やら真剣な顔でぶつぶつつぶやく無一郎くん。…え?そんなに私とやりたいことあるの???
「それ、全部遊園地に行けばできるね。」
「はっ」
と、いう私の鶴の一声で行き先が決まった。
ここから行けそうな遊園地を調べたが、一つだけあった。さほど離れているわけでもない。今から向かえば十分遊べるだろう。
無一郎くんは超特急で準備を済ませた。
旅館に泊まりの荷物を置いておき、身軽で遊園地に向かうことにした。
「そうか。遊びに行くんか。」
鉄珍様に話すと、非難することなく頷いた。
「大福くんは任せとき。」
『俺はおはぎだ。このお面ジジイ。』
その足元でうろちょろしているおはぎが悪態をついていた。
預けるのはやめた方がいいかと思ったが、鉄珍様を相手にしても人見知りのおはぎが暴れないのを見ると、そうでもないような気がした。