第56章 時間はない
薪が燃える音がした。
私の体もこんな風に燃えているんだろうか。
「どうして、今更そのような話をなさるのですか」
痛い。痛い、痛い。こんなにも傷が痛い。こんなにも、心の怪我が痛む。
「過ぎたことです。私は何も恨んでいません。恨むのなら私の愚行です。人を殺した、私自身です。」
そうだ。
それが全て。
私は、本当に誰も恨んでいない。
「心からそう思っています。これ以上、私に何かを言うのはやめてください。」
「……」
鉄珍様が再び口を開いた。
「もう何も言わんよ。ただ、少し…疲れた顔をしとったから。」
「………」
「老人の話し相手になってくれてありがとうな。さあ、もう休むといい。」
そう言われて私は頷いた。
鉄珍様はその場から動かなかったが、私は立ち上がった。
「アマモリの刀はどうやった?」
「良いものでした。」
「…あの子の刀は、確かに良いもんやったな。………。」
「……………使いにくかったです。」
「やろうな。」
変なひっかけはつけられたし、なんか毎回ちょっとずつ具合が違うし、正直に言うと使いにくかった。
「けど、ワシの刀でも使いにくかったやろ。」
「え?」
「お館様に頼まれて、何度か内緒でワシの刀を渡しとったんや。一番最初にお前さんがボロボロにした挙句、真っ二つにへし折ったんはワシのや。」
「えええ!?」
うそ!?
一番最初にもらったあの刀、鉄珍様のだったの!?最初から鉄珍様に刀もらえるなんてことないのに!!!
「ワシの刀を折ったんは後にも先にもお前さん一人やわ。」
「……すみません。」
「折るようなもん用意したワシが悪い。」
…はあ、職人らしいけども。
「………アマモリも苦労したと思うわ。お前さんに見合った刀を渡せるもんは、里にはおらんかった。」
「?」
「お前さんの強さに刀鍛冶の技術が追いついてへんかったの。ま、アマモリは気合いだけはある子やからなあ。ワシはお前さんの刀はようつくらんかった。けど、アマモリは根気強かったやろ。使いにくくてもものは良かったから、お前さんは扱えたんや。」
「…ちょっと使いにくくても、私は彼の刀が好きでした。」
「当の本人は定期的に刀ぼっきぼきに折られてちょっと挫けてたけどな。」
「そうなんだ」
それもまた知らないことだった。