第56章 時間はない
私を初めて見た時は、目を疑ったという。
「どんな人相の悪い子供かと思えば、かわいらしい子供やった。」
「……」
「ワシは、お前さんが人を殺せるはずがないと思った。けど確かに殺していた。」
今でも鮮明に覚えているという。
私はこの頃の記憶はなぜか不鮮明だが、あまりいい思い出ではなかった。
「人を殺したお前さんに刀を渡すことは刀鍛冶の里の長とて出来んかった。そのうち、諦めるかと思ったが……。それどころか、最強の剣士になった。刀はアマモリがやっとったんやろ。まあ、これについては揉めるに揉めた。」
「?アマモリくんが…ですか?」
「里の暴走した連中がアマモリを袋叩きにしてな。」
「え…?」
顔に貼り付けた笑顔が固まるのがわかる。
知らない。
そんなこと、知らない。
「アマモリはいつの間にか勝手に里に住み着いとった。よそ者ということで、元々よく見られとらんかった。」
「私に、刀を渡しただけで…そんなことに?」
「そうや。」
頭を大きな石で殴られたような。そんな衝撃。
「ワシは里長として、お前さんに刀を与えるわけにはいかなかった。しかし、アマモリならそれができた。鬼殺隊唯一の非公式の刀鍛冶や。ワシがどうこう言えることはない。
だからアマモリがお前さんに刀を与えていることを黙認していた。だが、里の者には話を通しておくべきやった…ワシの責任や。」
鉄珍様の小さな背中に、何か重いものが見えた気がして私は目を伏せた。
「人殺しと初めから決めつけずに、刀を渡しておくべきやった。」
「…鉄珍様。」
「死ぬまで、誰一人としてお前さんは殺さなかった。鬼殺隊としての責務を果たした。」
鉄珍様は続けた。
「お前さんには本当に申し訳ないことをした。」
私はぼうっと薪が燃えるストーブを見ていた。
そのうち、光が眩しくなって両手で顔を覆った。