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キメツ学園ー輪廻編【鬼滅の刃】

第56章 時間はない


無一郎くんとの散歩を終え、再び部屋に戻った。

もう外は日が沈んでいた。


無一郎くんは温泉に入りに行ったが、私はお腹の子のこともあって入れないので部屋のお風呂で済ませた。

ご飯を食べ終える頃には、無一郎くんはうとうとし出して、支度を済ませてさっさと寝てしまった。

その寝顔はあの頃と変わっていなくて、見ているとほっとした。
おはぎも丸まって寝ていたので、起こさないようにこっそりと部屋を出て中庭に向かった。

外に出ると息が真っ白になった。まだまだ寒い季節だから、当たり前だけど。


スマホの着信履歴はまた鬼のように溜まっていた。
もう寝ているかもしれないけれど、実弥に電話をかけた。

今度はしばらく時間が空いてから、彼は電話に出た。


「もしもし」

『…あぁ』


怒っている声だ。
ああ、電話越しでよかった。直接話したら大変なことになる。


「私、長くないみたい」


余計なことを言わないうちに、さっさと本題に入った。


『…は?』


実弥の間抜けな声がした。
私は続けた。


「なんかね、ぐちゃぐちゃなの。ダメになっちゃったみたい。」


ついに実弥にそんなことを言ってしまった。


「もうこれ以上壊れる前に、終わりたいの。」


うまく言葉にできただろうか。
実弥はわかっただろうか。

けど、今はこれが精一杯だった。


『、何考えてるんだ。』


実弥がいつもよりも早口だった。


「傷がね、消えないの。」


私はぶつぶつと独り言のように続けた。


「私に触るお父さんの手の感触が消えないし、お母さんの怒鳴り声も、拳も、全部全部消えない。

人を殺した時の光景が消えない。足がない春風さんを見た時の衝撃が消えない。動かない天晴先輩の記憶が消えない。冷たくなる桜くんの体温が消えない。最後に会った優鈴の笑顔が消えない。」


一つ一つ、色鮮やかに記憶に残っている。
痛いほどに、苦しいほどに、泣いてしまうほどに。


「昔、教えてもらったんだ。それは永遠に消えないって。」


音を立てて世界が崩れ落ちていくように思える。


「私は__」


たった一つだけの、かけがえのないものは、あっさりと消えていくのに。この心に刻まれた傷は消えない。


「傷に殺される前に、自分で終わらせようと思う」


消えないものは、消すしかない。
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