第55章 いい子いい子
私はそんなにわがままだっただろうか。
お母さん、お父さん、そんなに私が邪魔でしたか。そんなに憎かったですか。そんなに腹が立ちましたか。
何をしたのでしょうか。心当たりがないんです。だから、わからなかったんです。一人で閉じこもって、あなたたちから逃げるしかなかったんです。
あなたたちとの日々は苦しくて、今も焼き付いて離れません。今でも時々体が情けなく震えます。涙が出ます。心が痛くなります。
それでも、私には必要だった。
親は、子供に必要だ。私は離れることができなかった。いつでも逃げられた。それこそ、阿国みたいに誰かに頼ることもできた。
助けてと言えば誰か助けてくれたのかもしれない。
阿国は私と違う。どうして重なるのだろう。
私は、『助けて』なんて言えないから。
だから逃げなかった。ずっとあの家にいた。
逃げる度胸なんてなかった。
私は、もうあの時にはおかしかったんだろう。
苦しかったんだと、つらかったんだと、大人になってやっとわかった気がする。
一人でいないと。
閉じこもっていないと頭がおかしくなりそうだ。
自分が、わからない。
誰かと一緒にいるのはこんなにも難しい。
ぽたり、と頬に何か垂れた。空を見上げるとポツポツと雨が降ってきた。ああ、そうか。天気予報で雨って言ってた。
冬の雨は冷たくて、近くの公園の東屋の下で雨宿りをした。
おはぎがいてよかった。抱いているだけで暖かい。
「おはぎは初めての外だね」
『まぁ。そうだ。俺は家が好きだ。』
「そうかぁ」
おはぎが青い目でじいっと私を見つめる。
私だって本当は青い空が大好きだった。
太陽の下走り回ってみたかった。
一人で閉じこもるのは嫌い。
耳を塞いで、怒鳴り声を無視して、自分の声さえも聞こえないふりをした。
無視して、無視して、一人で閉じこもった結果が今だ。
どうだ、これが、私。