第55章 いい子いい子
「がヤバい」
実弥の声がどこからか聞こえて、私は目を閉じるのをやめた。
……ああ、1時間くらいただ意味もなく目を閉じていたのか。
のそのそと起き上がり、そろりそろりと声の元に向かうと実弥が誰かと電話していた。
私のことを話しているみたいだったので、なんとなく出る気にはなれずにその場に立ち止まった。
「なんか………ずっとぼうっとしてるし、ただ流れてる水を眺めてるし、さっきなんて皿洗い中にマネキンみたいに固まって、猫と話してたんだ…」
……………???
そんな変なことしてた?
「これ、病院か?病院に行かないといけないのか?それとも、アイツってそういうところ元々あったか?」
………。
私はそっと自分の部屋に戻った。
(ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!)
叫べるものなら叫びたいし、逃げられるのなら逃げたかった。
あ、あれ?私そんなに変なことしてた!?考え事に夢中で何も気づかなかった!!!
一人部屋でおろおろしている私を見ておはぎがにゃあと鳴いた。
『相変わらずの見飽きたバカ面だな』
「え?」
にゃあ、という鳴き声とほぼ同時にそう聞こえた。
『はぁ、腹が減った。菓子が欲しい。』
「ふぇ」
『そうだ、ちょっと隅っこから飛び出して男の方を驚かせてやろうかな』
おはぎがぴょいと椅子から飛び降りる。部屋から出ていこうとするので私はたまらず抱き上げた。
またおはぎがにゃん、と鳴く。
『はぁー、コイツかよ。相手するのはしんどいぞ。』
「えっえっえっ」
私はおはぎを抱えたまま実弥のもとへ向かった。電話を終えた彼は、スマホを片手にテレビを見ていた。