第55章 いい子いい子
だって私もう逃げたいもん。
散々に考えた結果が一切何も考えたくありませんってね。
ああ、なんか南国とかに高飛びしてビーチでトロピカルなジュースを飲んで過ごしたい。
あ〜今洗っているお皿もなんか、そうだな。どっかの世界みたいに急に歌い出したりしないかな。そして私を慰めてくれないかな。
あ、待って。もしかしたらしゃべるかも。
ピタリと手を止めて耳を澄ましてみるも、お皿はしゃべらない。
ざーーーーーっと水が流れていく。私の手は泡まみれで、握ったスポンジからぽたぽたと雫が垂れていた。
……………ああ、あの水になって私も一緒に流れていきたいかも。いやあ〜その先がブラジルに繋がってたりしないかしら。
「!!!」
「………ん?」
突然水が止まった。
次の瞬間、ガシッとスポンジを持っていた手を掴まれた。
顔を上げると、実弥がいた。
「………お前、大丈夫か…?」
「なに?」
「いや、だから…」
「なにが?」
実弥の緊張感というか、焦りがひしひしと伝わってくる。
「……俺がやるから、もう休め。」
「えーー……。」
「いいから。」
何やら青い顔で実弥が皿洗いを交代してくれた。
休めと言われたので自分の部屋に行こうとしたが、それも実弥に止められた。
「部屋は行くな。ソファーに座ってろ。」
「えー…」
「部屋に行くと仕事するだろうが。」
「しないから大丈夫…。」
「あ、おい!」
私は自分の部屋に戻り、仕事用の椅子に座…
「………」
「にゃあ」
ろうとしたらおはぎがそこに鎮座していたので諦めた。
ベッドに腰を下ろして本棚から適当に本を取って寝転ぶ。
「………」
「にゃあ」
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本当に、お前はバカだな
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「君は時々、人間の言葉を話しているみたいなことがあるね。」
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別に、話せないことはないさ
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「……」
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お前は、人間なのに言いたいことが言えなくて哀れで惨めだな
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「そうだね。でも、今は幸せなはずなんだ。」
私は本を読むこともなく目を閉じた。
眠ることなんて出来ないのに、眠ったふりをした。