第54章 痣、燃ゆる
眠れないからとリビングに来たのに、実弥は無理に眠らせようとはせずに私のお喋りに付き合ってくれた。
それが嬉しくて、そうしている間に頭が落ち着いてきた。
「……あのさ」
「ん?」
「無一郎くんのことなんだけど。」
実弥はじっと私を見る。何があるのかと警戒しているようだった。
「一回、ゆっくりお話ししたいって思うんだよね。」
「…そうか」
「でも、小さいあの子を連れ回すのはあまり良くないと思う。」
実弥はゆっくりと頷いた。
長い長いタメのあと、彼はいつかと同じように言った。
「好きにしたらいい。」
「……そう。」
まあ、確かに。
…この人には関係ないことだし……。
「まあ、お前らはたから見てたらおばさんと甥っ子みたいだし何か言われることはないんじゃねえか?」
「え」
「時透の親にバレなきゃいいだろ。」
おいお前本当に先生か。
今教師が言ったらダメなこと言ったよね!!
ていうかそれより!!!
「お…おば…ッ…」
「あ?そりゃ時透からすれば俺もお前もおばさんだしおじさんだろ。」
「おばっ………」
口がぱくぱくと無意味に動く。
いや、私も自分のことはおばさんだと思うけど。思うけども!!!
「取り消して」
「あ?」
「取り消してよおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ……………」
「はあ?おい、どうした?」
ヘナヘナと体の力が抜けていく。実弥にしがみついてエグエグと泣きじゃくった。そんな私を前に実弥がおろおろと慌てふためいていた。
「自分で言ったり思ったりするのはいいけど…君に言われると結構ショック。私、もう二度と実弥のことおじさんって言わない。」
「?言われた記憶がねえよ。」
「……」
フニフニと自分の頬を触る。…なんか、たるんでる…気がする?それに、もしかしたら肌ガサガサって思われてるかも。ああ、つい最近できたニキビ…。
「ああ、もうお前は綺麗だから大丈夫だよ。ごめんな。」
実弥がよしよしと私の頭を撫でる。
………ぐうう、そんなこと言われても、時の流れは残酷だよ…。