第54章 痣、燃ゆる
「体を冷やしちゃ悪いってお袋がよく言ってたんだ。」
テレビを見ながら実弥は独り言のように呟いた。
私はそんな彼に寄りかかってぎゅっと密着した。
「私のお袋は、『寒くてもあんたは風邪ひかないから大丈夫』って言ってたけどなあ…。」
「それでお前、いっつも薄着なのかよ。」
「いや、そもそも薄着薄着って言うけど、私ちゃんと服着てるよ??」
「足りねェ。あと2枚は重ね着しろ。靴下をはけ。中に来てるシャツはズボンの中に入れろ。髪の毛は風呂上がったらすぐに乾かせ。」
「なんて??」
実弥が伊黒くんみたいにネチネチと一気にそう言うので、思わず耳を塞ぎたくなった。
「…うん。あ、でも腹巻きはしてる!産婦人科の病院の先生に、お願いだからこれだけでも24時間身につけろって……」
「お前、それ先生にまで薄着の心配されてねえか…?」
え?あれ?
…そういうことだったの??
「ビックリだわ。でもそんなに厚着したら洗濯物がかさばるし、面倒……」
「なら洗濯は全部俺がやるから厚着しろ。着込め。」
「ええ、いや、君それだと大変…」
「お前がそれで厚着するならやるけど。」
実弥がさも当然のように言うので、私は頭を抱えた。
「そこまでしなくてもちゃんと着込みますぅ〜……」
「ん。まあ、急にやれなんて言わねえよ。まずは靴下を履くところからやってみろ。」
「…はあい。」
こんな風に諭されると、実弥って本当に先生なんだなと思う。
…いや、彼の職業を疑っているわけではないんだけど。
きっと生徒から慕われてるんだろうな。いい先生なんだろう。
………ちょっと短気なところもあるけど、まあ、職場では暴走してない、よね?