第7章 告げて
無一郎くんが唖然とする。
もう私はこの子を受け入れるつもりはない。
私のそばにいたら、また死んでしまうかもしれない。死なないにしても、嫌な目にあうかも。
前世ではそれができなかったから中途半端に突き放して、ひどいことをした。……それに、この子を一人残して鬼殺隊から離れた。無責任にも霞柱の称号をこの子に託して。
「師範」
無一郎くんは顔を覆った。嗚咽が大きくなる。肩を震わせて泣いていた。
手を伸ばしてくる。その手には前世のようなひどい怪我はない。
「師範じゃない。もう私は君の師範じゃない。だから、私に関わらないで。」
「師範は師範です!ずっと、ずっと僕の憧れで、尊敬する人で、大好きな人です!!」
「お願い、わかって無一郎くん」
私は泣きながら懇願した。
「自由に、平和に生きてほしいの。普通の幸せを手に入れてほしいの。鬼なんていなかったら私たち出会うはずもなかった。だから君の人生に私はいらないの。」
無一郎くんは首を横に振った。
「僕は幸せでした」
「…?」
「たくさん辛いことがあったけど、幸せだと思えることがたくさんありました。家族と過ごした日々も、鬼殺隊の仲間たちといた時間も、師範と一緒にいたことも…。」
小柄な体に溢れんばかりの感情を感じる。それは色々なものがないまぜになっていた。
「僕は幸せになるために生まれて、幸せになって死んだんです」
「……無一郎くん」
「今だって幸せです…でも、また師範の側にいられたらって何度も思うんです。記憶を取り戻してから会いたくて会いたくて…伝えたいこともたくさんあるんです。」
私は目を逸らした。
もう限界だった。これ以上は。
自分の膝を抱き抱えて顔を埋めた。
「……私は、会いたくなかった」
「じゃあ…じゃあ僕を見て言ってください…!そうしたら…。」
無一郎くんは小さな頼りない声で言った。
「そうしたら、諦められるから」
その言葉を聞いても顔が上がらなかった。
私は前世と何も変わらない。彼の目を見たら、突き離せないと分かっているんだ。だから目を逸らし続けた。