第7章 告げて
「僕…」
無一郎くんの顔が青くなる。
「どうして」
「…ごめんね」
私はそう言うしかなかった。
「どうしていつも僕を突き放すんですか」
無一郎くんが言う。
それに驚いて言葉を止めた。
「師範はいつも僕の目を見なかった。」
「……」
「今もそう、僕がどんな話をしても。」
私はぐっと唇を噛んだ。
「僕は師範のことが「もうやめて!!!」」
気づけば叫んでいた。
「………!」
しまった、と思って慌てて口を閉じた。
だがもう遅い。
「どうして」
無一郎くんは目に涙を浮かべた。
「師範が僕にしてくれたことは全部嘘だったんですか」
「……」
その質問に答えることができなかった。否定も肯定もできなかった。
私は視線を下に向けた。自分の手が見えた。暑くもないのに手汗がひどかった。
「師範」
無一郎くんが私の腕を掴む。
顔が上がらない。懇願されるようなその視線が辛かった。
「……私は」
ポタポタと手に何か冷たいものが落ちた。
私も泣いていた。自覚もなかった。気づけば涙が溢れていた。
「そんな風に言われる人間ではないし、なかったのです」
「…でも!僕は師範が…!!」
「鬼になったから」
私はついにそれを口にした。
「鬼になったの、私。だから皆の前から消えたの。」
「……。」
「君に会った時にはもう全部決まっていて「嘘だ!」」
今度は無一郎くんが叫んだ。
「嘘じゃない」
「師範がそんなことするはずがない!!」
「嘘じゃないんだよ」
私はハラハラと涙を流した。
「嘘だったら、こんなに苦しくはないし、君を突き放すこともしなかった。」
ゆっくりと無一郎くんが私の腕を離す。
「…何か……何か、理由が…あったんですよね」
「……」
私はその目を見つめた。
…面と向かって見るのは久しぶりだなあ。
「ない。」
私は言う。
「そんなものはない。」