第54章 痣、燃ゆる
普通に暮らすだけで大変だということは身にしみてわかっている。
しかし、まあ、なんというか。
「なんか、ちょっと色々考えるのストップしてもいいですか?」
朝からベッドで唸る私に実弥が苦笑する。
「いいと思うぜ。」
「……他人事だと思ってええぇぇぇ…。」
「思ってねえよ。」
いつになったら終わるんだろうか、悪阻は。
頭がぐらぐらするし、何も出てこないのに吐き気がする。
今まで体験したことのないくらいの体調不良なんですけど。
「頭痛い気持ち悪いお腹痛い気持ち悪い気持ち悪い…けど、どうにもならない……」
「……お袋もこんな感じだったっけか…」
「……」
私ははあ、とため息をついて起き上がった。
唸っていても治らないししょうがない。
「……はあ。散歩でも行こうかな。」
「じゃあ俺も…。」
「君はそろそろ仕事に戻る準備したほうがいいんじゃない。」
「…俺だってもう何も考えたくねぇよ……」
「そんなにか」
変だなあと思いつつ、実弥が素直に弱気なことを言うのは珍しいと思った。
「何かあったの?」
「別にィ」
…嘘ついても私にはバレるんですけどね。
「むうぅ〜!言わないとこうだああ〜!!!」
「ガッ!!?ちょっ!やめろ!!やめろって!!!」
わしゃわしゃと実弥の髪を撫で回し、思い切りぎゅうっとホールド。
真っ赤になって抵抗すると実弥は真っ赤になって抵抗した。
「実弥の髪の毛はふわふわしててかわいいねぇ。なんか、その…ベタベタするけど……。」
「それはワックスだ!!!!!!!」
なんだ。一瞬頭皮の脂かと思った。