第54章 痣、燃ゆる
実弥がご飯を作ってくれると言うけれど、お腹が空いていないから断った。
「じゃあ映画でも観るか」
文句ひとつ言わないでそう提案され、私は嬉々として頷いた。
レンタルしてくれていたらしい映画はドキドキハラハラするようなやつではなく、ほんわかとした内容だった。
感動もしなければ焦燥感もない。けれど面白い内容だった。
中盤に差し掛かったところで、クウと音が鳴った。
……私のお腹から。
「飯にするか」
実弥が言った。
彼が作ったのは冬にはぴったりの鍋だった。
「美味しい」
ほっこりする優しい味付けに、思わず口から漏れた。
実弥は優しく微笑んだ。
「二人だけの飯もあとちょっとだなァ」
「…本当だね。」
お腹の子供も一緒に食卓を囲む。
そんな日が来るのが待ち遠しい。
_______何を呑気に食ってるんだ
_______いやらしい、金食い虫
待ち遠しいけど。
「…私、この子を殴ったりしないよね」
独り言のように呟いた。
最近はよく両親のことがフラッシュバックする。
よりにもよって嫌な記憶ばかり思い出す。
「殴ったら俺がお前を怒る」
私とは全然違うテンションで、実弥がどうでもいい、とでも言いたげに適当に答えた。
「…殴らないんだ」
「俺がお前を殴るわけないだろ。」
……確かに、叩かれたことはあっても殴られたことはない。
前世、は…。
いや、むしろ私の方が殴る蹴る刀で叩くのオンパレードだったな。いや、それは弱かった向こうが悪いということで!
「フフッ」
「何笑ってんだよ」
「甘いなあと思って。はっ!じゃあ何しても殴らない!?待ってて実弥のお皿にデスソース入れるから!!!」
「殴らねえけどそれはちょっと待ちやがれェ!!てかなんで家にデスソースあるんだよ!?」
実弥の一言で心がずいぶんと軽くなった。
ああ、いつも助けられているなあと思ってすごく心があたたかくなった。
あ、ちなみにデスソースはこの家にありません。嘘です。