第53章 心通わせ
「つまり、妻は三姉妹でして、春風くんの母、あなたの母、そして妻の三人が氷雨家出身なのです。」
霞守のご主人が丁寧に話してくれる。……いや冷静に説明されても受け止められません。
え?じゃあ、私と陽明くんって…。
「そ。俺らはいとこだったってわけ。もちろん、阿国も。」
「でもお姉ちゃんは氷雨家と縁切りしちゃったからぁ〜。」
「我々とはこれまで関わりがなかったというわけです。春風くんの家族とは関わり合ってきたのですが、ヨウコさんとは結婚以来会っていなかったのです。」
「突然のことで混乱するのは分かるわ。お姉ちゃんがひどいことをした時、私たちはあなたが家族だと知っていながら何もしなかったんだもの。今更よね。
けど、陽明がどうして今まであなたを助けてきたのか、どうしてあなたが神社に出入りすることを私が許していたのか…このことからわかってほしいの。」
………。
そうか。
私たち、形は違うけど“家族”だったんだ。
「一番上の姉さんと話したの。お姉ちゃんのことから逃げないで、私たちでなんとかしようって。だから、お姉ちゃんのことは私たちに任せてもらっていいのよ。」
彼女はポン、と私の肩を叩いた。
「今まであなたを苦しめてきた罪滅ぼしとして、認めてくれないかしら。あなたのために私たちはなんでもするから。」
その手は小さいけれど、どこか力強い。まるでこの人が過ごしてきたこれまでの時間を表しているようだった。
不思議で変な人だとは思う。けれど、この人だって人間の母親であってそれだけの強さを持つ人なのだ。
__認めるも何も、母にとって良い選択ができるのがあなたたちなら、私に言えることは何もない。
私は素直な気持ちを口にした。
母親はにぱーっと気の抜けた笑顔を浮かべた。
「そ。ならよかった。ねえあなた、帰りましょ。私おやつが食べたいわ。」
と、早口にまくしたててさっさと病室から風のように出て行ってしまった。
…姉妹だなあ、春風さんのお母さんこの奔放さは似ているかもしれない。
「……本日は、突然ご訪問してしまい申し訳ありませんでした。」
霞守のご主人は律儀に頭を下げたが、早く追いかけた方がいいと言うと慌てて病室から出て行った。